「山怪」
田中康弘著、ヤマケイ文庫、2019
「やまかい」と読みます。2015年に単行本として出版されました。2019年に文庫となりました。7月に第一刷。そして9月に第五刷だそうです。ちなみに、自分は古書店で見つけました。
単行本で発刊されたときから興味がありました。これは現代の「遠野物語」なのだろうと思いました。遠野物語は1910年(明治43年)に出版されています。約100年後に「山怪」が出版されましたが、登場するエピソードは類似しています。語る方がいて、書き留める方がいる。そういうことで、山の中の不思議なできごとが残されて行きます。著者が素敵だと思うのは、「語る」ことに異議を見出しているところです。「怪」は語り継がれることで生き残ると著者は言います。ですから、近代以降の生活様式では「語り継がれる」ことがありません。そして「保存」されます。語り部たちによって。
このようなことを著者は書かれていますが、この在り様は「民謡」と同じなのではないかと思いました。現代、民謡は生きているのでしょうか。新しい民謡は生まれているのでしょうか。新しい音頭は時々生まれます。それがかつての用いられ方とは異なるとしても。では、民謡はどうでしょうか。「保全」されています。そして、若い民謡の歌い手も育っています。しかし、それは博物館の中のパフォーマンスのような気がしてきます。それでも残っているのであれば、よいのかもしれませんが。
この本が評判になるのは、書かれている「怪」の内容に留まらず、著者の「語り継がれる」べきものへの哀切にあるのかもしれません。「その二」も文庫になっているようです。そのうち、お目にかかるのでしょう。ですから、こちらからは慌てて迎えに行くことはしません。現れるのを待つこととします。
posted by KAZZ Satoh at 23:01|
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